初恋 ~頑張る女子と俺様上司の攻防戦~
祐介くんは今、龍之介のお父様である外務大臣御影尊仁の秘書をしている。
元々、虹子の旦那さんである高宮哲翔さんの縁戚に当たる人らしい。
高宮家と言えば日本を代表する宮家の1つ。週刊誌を賑わすことも少なくないし、虹子も宮家に嫁ぐシンデレラって随分追いかけられてきた。
祐介くんも一時メディアに取り上げられていたけれど、仕事を始めてからは秘書として陰に徹している。
色々と噂もあるけれど、私は聞かない。
謙虚で、誠実で、優しい祐介くんを私は知っているから。

「龍之介さんと喧嘩でもした?」
「・・・うん」
祐介くんに嘘はつけない。
「またわがままでも言ったんだろう」
「違うよ」
うっ、治まっていた涙が、こみ上げてきそう。

龍之介と祐介くんは同じ職場の同僚。
政治家であるお父様の秘書として一緒に働いている。

「良かったら話してみろ。聞いてやるぞ」
「大丈夫だから」
「そんな顔で言われても、説得力ないな」
フン、どうせ。

祐介くんは私と同い年のくせにどこか達観しているようなところがある。
大学時代はただ優しい子としか思わなかったけれど、今は物にも人にも執着心が薄くてまるで修行僧みたいと思っている。
一度飲み会の席で、「どうしたの?祐介くん何かあった?」って聞いたことがあった。それに対する彼の答えは、「人を傷つけた。消えることのない大きな傷をつけてしまった」と言って唇を噛みしめた。
辛そうな表情が頭に残ってしまい、それ以上のことは聞けなかった。

「良かったら家来るか?」
え?

龍之介と私が住むマンションと祐介くんの住むマンションとはすぐ近く。
お父様の事務所に近くて駅にも近いところを探した結果そうなった。

「行こう。これ以上遅くなると玲奈が心配する」

いいのかなあ。
突然押しかけたら迷惑なんじゃ・・・
< 221 / 233 >

この作品をシェア

pagetop