初恋 ~頑張る女子と俺様上司の攻防戦~
「どうしたの?お茶をどうぞ。私、今カフェインを控えているから家にはコーヒーはないの。ごめんなさいね」
「うん、大丈夫。ありがとう」

お茶と一緒に出されたのは自然食品で有名な店の手作りクッキー。
これってなかなか手に入らないのよね。
「ああ、それね、パパのデパートが扱っているらしくて、時々届くのよ」
「へー」
さすがお嬢様。
「でも、私はこっちをいただくから」
そう言うと、コンビニの袋からフルーツゼリーを取り出した。

玲奈が手にしたのはよくコンビニやスーパーで見かける、果肉ごろごろのフルーツゼリー。
確か、100円くらいで買えるもの。

「随分と好みが変ったわね」
つい、意地悪な言い方になってしまった。
「まあね、こんな美味しいものがあるなんてあの頃の私は知らなかったから」
サラッと受け流された。

本当に、玲奈は変ったんだね。

龍之介と付き合うと決めたとき、私は玲奈を呼び出した。
それまで、玲奈が龍之介を好きなのは知っていて、親同士を交えて結婚の話が出ていることも知っていて、私は自分の気持ちをごまかし続けていた。
好きなのに、好きじゃないと言い、それでも龍之介のそばには居続けようとした。
卑怯な奴だった。
「ごめんなさい。私、龍之介のことが好きです」
呼び出したカフェで、テーブルにつくほど頭を下げた。
水でも掛けられるのかな、ひょっとしたら叩かれたりして?
なんて思っていると、
「やめてよ。そんな言い方されたら、私が負けたみたいじゃないの」
思いの外静かな口調。
「許してくれるの?」
「仕方ないじゃない。龍之介さんからも連絡があったわ。『悪いのは俺だから、未来を怒らないで欲しい』ですって」
「そう」
その時、初めて玲奈とちゃんと話をした。
玲奈の意地悪は、人として、社会人として褒められたものではなかったけれど、原因は中途半端な私の態度。
それがわかって、わだかまりは消えた。
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