神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
 眠っていた何かが呼び起こされるような、これまでの人生でまだ一度も感じたことのない、実に不可解で奇妙で、そしてどこか甘美な・・・・
 突然彼女を襲ったその不思議な感覚に、彼女自身、思わずハッと肩を揺らす。
な、何・・・?
綺麗な眉を眉間に寄せながらも、強い表情のまま、リタ・メタリカの美しき姫は、ゆっくりとその場に立ち上がった。
そして、その紺碧色の瞳を細めると、鋭くも静かな口調で言うのである。
「貴方と共に行けば・・・スターレットに会えると?そう言う意味ですか?」
「そう受け取ってもらってもかまわないが?」
 相変わらずの無粋な言いようで、彼はそう言った。
「・・・・・ならば、答えは簡単です・・・・ゼラキエルを、追います。
しかし、私は、貴方に守ってもらおうとは思いません、自分の身は自分で守ります・・・・!」
「・・・・・・・。」
 リタ・メタリカの姫君がはっきりと出したその答えに、ジェスターは端正な口元でどこか不敵に笑うと、ゆっくりと彼女の前に立ったのだった。
 ふわりと、若獅子の鬣のような見事な栗毛が揺れる。
 見つめていると、その瞳の奥に捕らえしまうような、燃え盛る緑の炎の・・・異形と呼ばれる彼の両眼。
 うろたえるウィルタールが、何の言葉すら口に出来ずに、ただまじまじと、眼前で対峙する異形の瞳の魔法剣士と、美しきリタ・メタリカの姫の顔を見る。 
その時既に、大国の王の居城にはびこっていた闇の魔物は全て消え失せて、ただ、今宵、金色の輝きを放つ満月が黒絹の夜空から、騒乱を極めた巨大な城を淡く照らすばかりであった。
時は、波乱の風を連れ、今、動き始めた・・・・。


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