神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>
彼は、金色の大剣を背中の鞘に収めながら、ゆっくりと膝を落として、その状況を全く把握できないままでいる、リーヤティアの秀麗な顔を愉快そうに覗き込んだのである。
 そんな彼の端正で凛々しい顔を、真っ向から睨みつけて彼女は言い放った。
「私を誰だと思っているのです!?貴方は一体何者なのです!?
その無礼な物の言いよう、その首を跳ねられたいのですか!?」
「怖い怖い・・・それがリタ・メタリカの姫たる者の言葉かよ?しとやかな姫ならば、首を跳ねてやるなんて普通言わないぜ?
俺はスターレットの古い友だ、あいつからお前を頼まれた、それがこんなじゃじゃ馬なんて、飛んだ貧乏くじだがな」
 ますます火に油を注ぐようなジェスターの言葉に、ウィルタールはそのあどけない顔をこわばらせて、ひたすらおろおろするばかりである。
 リーヤの秀麗な顔がますます怒りに歪んでいく。
 やけに冷めた顔つきをして、ジェスターはその見事な栗毛を片手でかきあげながら更に言うのである。
「おい、お前がリタ・メタリカの姫だろうがなんだろうが俺には関係ない、選択肢は二つだ、このまま王宮に残って魔物に慄くか、俺とゼラキエルを追うか・・・お前が決めろ」
「何を言っているのですか貴方は!?それはどういう意味なのです!?
スターレットはどこへ行ったのです!?」
「だから、スターレットはゼラキエルを追ったと言ってるだろ?
お前は【破滅の鍵】だ、だが、まだその時は満ちない。
俺に守られるか、スターレットが戻るまで王宮の魔法使いに守られるか、そのどっちかだって事だ、早く決めろ」
 彼の持つ緑玉の瞳が鋭く細められた。
 その無粋な物言いにはそぐわぬ程の、燃え盛る緑の炎のような美しく鮮やかな緑玉の両眼。
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