ピュアダーク
「あの時は、本当に知らなかったんです」

 突然グレイスは大きな声をあげ主張した。逃げ出したくなる気持ちを抑え、体が震えている。

「ちょっと、グレイス、どうしたの。落ち着いて」

 グレイスは人見知りをしている。

 慣れてない人に会うと怖くなって、パニックを起こしてるのかもしれない。

 ベアトリスは真相のことも知らずにグレイスを庇った。

「パトリック、あんまりこの子を脅かさないで。私も最近仲良くなったばかりで、この子人見知りしちゃうんだから。こんなかわいらしい子になんて目で見てるのよ」

 パトリックもやりすぎたかと反省する。

「ごめんごめん、この子、見た目と違ってかなり出来る子だったから、ちょっとライバル心が芽生えて…… すまなかったな」

「ライバルって、パトリックはもうすでに大学卒業してるじゃない。大人気ない」

「まあそうなんだけど、この子だって、二年くらい飛び級してるんだぜ」

 パトリックの言葉にベアトリスは目を丸くした。

「えー、グレイスが飛び級。そしたら私よりもさらに三つ年下ってこと?」

 グレイスは遠慮がちに頷いた。

「そう言えばグレイスは小さいし、他の皆より幼い感じがする。だけどどうして皆そんな簡単に飛び級なんてできるの」

「ベアトリスだって、やろうと思えば出来たと思うよ。だけどアメリアが許さなかったと思う。あの人決まったことはきっちりと順序立てないと気がすまない人だから」

 ──それにそんな目立つことしたらベアトリスの正体がばれてしまうことを懸念したんだろうけど。

 パトリックは心の中でつけたした。

 グレイスはまだ落ち着かず、パトリックを怖がっていた。

「あの、私、その、お邪魔してすみませんでした。それでは失礼します」

 逃げるように走って去ってしまった。

「んもう、これもパトリックのせいだからね。とにかくここで待ってて、すぐに戻ってくるから」

 ベアトリスは非難の指先をパトリックに向けた。そして放っておけずにグレイスの後を追った。

「待ってグレイス」

 折角心開いて誘ってくれたのにと思うと、ベアトリスは申し訳がなかった。

 グレイスが人見知りなのは、飛び級したせいで、年上の人間といつも接して気を遣うからかもしれない。

 そんな中で自分には心開いてくれるグレイスだからこそ、放っておくわけにはいかなかった。

< 149 / 405 >

この作品をシェア

pagetop