ピュアダーク
 星がところどころ雲に覆われ、姿を消したり出したりしている。

 その雲は生き物のように形を変え空を滑るように流れていく。

 強い風がそうさせていた。

 その風に長い髪をなびかせて、まだベアトリスの家の前に人影は静かに立っていた。

 ベアトリスはその時、髪を洗い終わり、ボディーソープをスポンジにたっぷりつけて今度は体を泡まみれにしていた。そしてふと手が止まった。

「ん?」

 何かを感じ、シャワーカーテンをずらしてバスルームを見渡した。

「誰も居るわけないか。なんか人の気配がしたけど気のせいか。まさかパトリックが覗きってことないよね」

 そんなことはありえないと、その時は笑って鼻歌交じりにまた体を洗いだした。

 最後の仕上げに再び熱いシャワーを浴びた。勢いよく出るお湯が体に心地よく、マッサージを受けてる気分だった。

 暫くそのまま目を閉じて水圧の刺激を楽しんでいた。

 そしてその時コールも、ピタッと動きが止まった。

 目を閉じて神経を研ぎ澄まし一定方向に集中すると鋭い目つきになり、先ほどよりも数倍の速さで駆け巡った。

 外の風が止んだとき、家の前に立っていた人影は姿をすっと消した。

 次にその人影が現れたのはシャワーカーテンを挟んだベアトリスの前だった。

 ベアトリスは何も知らず、お湯が激しくほとばしるシャワーを浴びている。

 その人影は、カーテンの向こう側にいるベアトリスのシルエットを、ただ静かに見ていた。

 ベアトリスがお湯を止めたときだった。急に人の気配を強く感じ、シャワーカーテンの方に目をやると黒っぽい人影が目に飛び込んだ。

 ──うそ、誰か居る。まさかパトリック。

 ベアトリスはカーテンの端を持ち怖い気持ちを抱きながらも、勢いつけて顔だけ出した。

 だがそこには何もいなかった。

「あれっ、やっぱり気のせいか。なんかさっきから変な感覚を感じる。でもバスルームのカギは閉めてるし、誰も入れるわけないか」

 パトリックがいるだけで過敏になりすぎて、変な気の回し過ぎだと済ませた。

 だが人影は次にアメリアの部屋に現れた。

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