ピュアダーク
 病院の窓から朝日が差し込むのを、ベアトリスはベッドの中からぼんやりと見ていた。

 腕に擦り傷と、足に打撲がみられるが、放っておけばすぐにでも治る程度で、体はどこも悪くなかった。

 大事をとってまだ病院に入院しなければならなかったが、一人で起き上がって家に帰りたく、それよりも早く学校に行ってヴィンセントに会いたい気持ちが高まる。

 つい起き上がるが、ソファーで毛布に包まり、仮眠を取っているアメリアに目が行ってしまった。

 心配してずっと付き添う姿を見ると、余計なことはできないとガス抜きをするようなため息が吐き出され、立ち上がりたい気持ちをぐっと堪え、上半身だけ起こしベッドの中に留まった。

 アメリアも先日事件に巻き込まれて精神的ショックを受けているだけに、自分の事故で要らぬ気を遣わせてしまったことに申し訳なさを感じていた。

 ベアトリスはぎゅっとブランケットを握り締めてしめてしまう。

 なぜ事故に巻き込まれてしまったか、その原因は自分の優柔不断な心にあることは充分承知していた。

 何かに影響されれば迷いはないと言い切ってもあっさりと心が揺れ、要らぬことを考えて注意散漫してしまった。

 それが原因だとは分かっていても、この時、自分を棚に上げ、何かに責任を押し付けずにはいられなかった。

 まるで何かが起こることで自分を押さえつけ、自由にさせないように阻まれているように思えたからだった。

 そしてこの時、軽く頭痛がして、無意識にこめかみを押さえた。この痛みも陰謀のように何かの忠告に思えてならなかった。

 ──なぜこんなにも私の周りはいろんなことが起こるのだろう。私はただ、ただ……

 ベアトリスは思うようにことが運ばないことで心に苛立ちを抱えてしまった。

 自分でもいつもと違う感情が芽生えていることに戸惑いを感じてしまう。

 体の中でそれは飛び出そうとぶつかっては何度も跳ねてるようだった。

 自分は変われると思っても、意思を強くもっても、それを阻止しようと、硬い壁に覆われて外に出られない。

 その硬い壁自体が自分の体自身で、まるで完全に独立した外壁のように感じられた。

 何かによって圧力をかけられて押さえ込まれている概念を強く抱いたとき、また先ほどよりもきつい頭痛に襲われた。

 ベアトリスのうめき声が洩れるとアメリアがそれに反応して目を覚ました。

「ベアトリス、どうしたの?気分が悪いの」

 急いで立ちあがり、ベアトリスの側までやってきた。

「私は大丈夫。それよりもアメリア、家に戻って。アメリアだっていろんなことがあって、疲れているはず。これ以上迷惑はかけられない」

「何を言ってるの、私は親代わりよ。あなたの面倒を見ることが私の責任」

「だから、それが私には辛いの。私はもう一人でなんでもしなくっちゃいけないはず。アメリアは私を守りすぎ。まるで私が一人で行動しちゃいけないみたい」

 アメリアはいつもと違うベアトリスの神経の高ぶった言い方に動揺してしまった。

 ヴィンセントと意識を共有した何かしらの影響があったのではと疑わずにはいられなかった。

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