ピュアダーク
 マーサもその隣に腰掛け静かに笑いを見せると、いいことなのか悪いことなのか判らずベアトリスは強張った顔になった。

 水晶を目の前に見せられそれが怪しく光る。

 何度も自分に向けられたので、それを持てという意味だと気がつくと、恐々と受け取った。

 両手で水晶を抱え、マーサもベアトリスの手を包むように上から抱え込んだ。

 二人は一緒に水晶を持った。

 光が二人の顔を照らし青白く暗闇の中で浮いて見えた。

「いいかい、リラックスするんだ。ほら、見てご覧、あんたの手から黒い影が水晶に吸い取られてるよ。かなりの強い闇だ。でもこの闇、私には美味しいんだ。これが私の力を強くしてくれる」

 水晶が真っ黒くなっていくと光がさえぎられたが、うねる煙のような闇の隙間からところどころ光が洩れていた。

 それに反応するかのようにベアトリスの記憶が蘇り色んな場面が洩れる光に合わせてフラッシュしだした。

 子供の頃のヴィンセントの顔。

 初めて会ったときのこと。

 一緒に遊んだ夏。

 そしてヴィンセントの母親の死の場面とヴィンセントが怒りをコントロールできなくて自分が必死で抱きしめていたことも思い出し、全ての記憶が繋がった。

 ベアトリスは目を瞑り、じっと動かなかった。

 水晶を持つ手が震え、そして涙が頬を伝わる。

「私にも見えるよ、あんたの記憶。あんたあのボーイフレンドより、リチャードの息子が好きなんだね」

 マーサの指摘でベアトリスは反射的に目を開け突然立ち上がり、水晶玉から手を離して落としそうになった。

 マーサが慌てて掴んだ。

「ちょっと気をつけてよ。これがないと私商売できないんだから」

 ブツブツと文句をいっていた。

 その時、ベッドからコールが起き上がった。
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