ピュアダーク
「落ち着けヴィンセント。彼女は大丈夫だ。彼女が電話に出たときはもう犯人は消えていたと考えられる。もし見つかっていたら、彼女は連れ去られていたはずだ。私の憶測だが、アメリアは危険を察知して助けが欲しくてすぐに私に電話をした。そしてベアトリスからその犯人を遠ざけるために咄嗟に自分が囮になったんだろう。彼女にはホワイトライトの血が混じってる。だから犯人のホワイトライトに反応する五感を撹乱できると思った。そして完全なホワイトライトではなかったために犯人も諦めて去っていったって訳だ」

「そっか、アメリアはホワイトライトとノンライトの血が混ざっている。あの水を飲むことである程度の力を得られるが、ホワイトライトのように完璧じゃないってことか」

「ヴィンセント、さっきコールを見たと言ったな」

「ああ、偶然町で出会った。俺を仲間に入れようと誘ってきた。もちろん断ったぜ。でも奴はこの町にホワイトライトがいると睨んでやがる」

「そっか…… アメリアを襲ったのはコールではないのは判るが、奴が一枚噛んでる疑念は拭えない。いや、これから噛んでくるのかもしれない。嫌な予感がする」

「親父、すまない。全ては俺が自分で蒔いた種だ。俺、俺…… 」

 ヴィンセントは歯をギシギシと食いしばる。悔やんでも悔やみきれないと体を震わせていた。

「私に謝って済む問題ではない。お前はとにかくベアトリスには一切近づくな。それが今出来る最善の策だ。わかったな」

 ヴィンセントは深甚なる反省を込め、目をぎゅっと瞑って素直に首を縦に振った。

 それはベアトリスへの思いを断つと同じ意味を持っていた。

 リチャードはアメリアの無事を確認するために詳しい情報を得ようとまた署へと戻る。

 ヴィンセントは何も出来ず、一人ポツンと居間に取り残され呆然と立ちすくんでいた。

 体は闇に蝕まれたように、光を二度と得る事のできない世界に落ちた気分だった。

 自分で引っ掻いた胸の傷がこの時になってズキズキと痛み出し、 胸を押さえガクッと崩れて床にうずくまる。

 リチャードに叱られて殴られるよりも一番堪えていた。
< 99 / 405 >

この作品をシェア

pagetop