リアルの素晴らしさを教えて
「ただいまー」

その声の方に目線をやるとそこには那智(なち)が立っていた。彼女も演劇部で、部長をやってくれている。私が挨拶を返す前に那智は言葉を続けた。

「あれ、桜(さくら)は??」
「まだ来てないよ。教室で誰かと話してるんじゃない?」
「『掃除で遅れる』じゃないあたりが桜だよね〜」
「それな~」

そんなことを話していると、扉が開いた。

「ただいまー」

今入ってきたのが演劇部最後の部員、桜坂 珠莉(おうさか しゅり)。“桜(さくら)”というのは珠莉の【部ネーム】。私と那智にもあるのだが、お互い名前で呼び合ってしまっているし、桜は気恥ずかしいのかなんなのか変なあだ名で呼んでいるので、【部ネーム】はあってないようなものなのだ。

「「おかえり」」

私と那智が声を揃えて返す。
「ただいま」「おかえり」と言うのは、部室に入る時の挨拶。基本は「おはようございます」とか「こんにちは」とか部室に入る時と言うよりは中にいる部員に呼びかけるものだったのだが、付き合いが長くなるにつれて桜がふざけて「ただいま」と言ったのが始まりだった。
それからは3人とも「ただいま」「おかえり」と言うようになった。

本当は、【演劇部】だからいつでも「おはようございます」と言わなければならないのだけれど・・・・・・。
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