リアルの素晴らしさを教えて
「じゃあ全員揃ったことだし、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

荷物を机に置き、椅子に手をかけながら那智が言った。

「何?」「どうした?」

私と桜が声を合わせて・・・・・・でも違う言葉を同時に返す。

「今年の文化祭ってどうする?」
「3人だけなのに演(や)るつもりだったのか?」
「先輩方が繋いできた伝統だから、って渡辺が・・・・・・。」

渡辺というのは演劇部の顧問なのだが、一切部活に顔を出さない。そのくせ口だけは出してくる。もちろん、実行するのは私たちだけだ。

実力も経験もないくせに、そんな風に偉そうな態度をとるので、今までの部員からも相当毛嫌いされていた。
私たちの間では「先生」なんてつける価値はない、と意見が一致しているので、みんな呼び捨てで呼んでいる。

「今年は公開だからクラスでの準備もあるだろうし、部活の方まで手が回らないと思う」
「そうだよね~」

那智が安堵の表情を浮かべた。渡辺のことだから、話も聞かず自分のためにそう言ったのだろう。

「嫌なのが私だけだったらどうしようかと思った~」
「いやいや常識的に無理だろ」
「そうだよねー。ちょっと死にに逝ってくる・・・・・・」
「お疲れ様です」「頑張って!」

足取りも重く、那智は相談室から出て行った。
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