リアルの素晴らしさを教えて
扉が閉まると、二人とも無言でスマホを取り出しいじり始めた。下敷きで扇ぐときのあのなんとも言えない音だけが部屋に響き渡る。ふいに桜が口を開いた。

「・・・・・・なあ、暑くね?」

日当たりが悪いからか夏の割には涼しいが、エアコンがある教室にはどうしたって敵わない。だが、旧校舎なのでエアコンの施行工事も終わっていないため部屋にあるのは家庭用の扇風機だけだ。
学校によくある、私の背丈ほどもある大きい扇風機ではない。家庭用の扇風機が一台置いてあるだけだ。

「うん」

とりあえず同意を返す。それを聞きながら、桜は慣れた手つきで、窓を開け、扉を開け、扇風機のプラグをコンセントに差し込んだ。

扇風機の風が涼しく・・・・・・ない。生ぬるい風があたるだけ。唯一、窓から扉へ抜けていく風が救いだった。
桜も同じことを思ったようでそっと電源を落とした。

結局この日はやる気が出ず、那智が戻ってきてからも、“夏休みなのになんで学校が~”とか“宿題多くね”とか“土曜日も休みないとかふざけてる”とか・・・・・・そんな他愛もないことを話して終わった。
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