キミにコイしてた。

とまどい

サッカー部の練習を見学するようになって

3ヶ月がたつ―


もう秋。

少しずつ肌寒さを感じる季節。

そして 先輩も高校受験の勉強のため
部活も引退の時期がやって来た。

今日が引退の日。


体育館であたしは壁にもたれながら

練習を見守る。


(今日で最後かぁ…。先輩と会う機会も 話せる機会も減っちゃうな…。)


寂しさが募る。


(先輩に気持ち伝えようかな…。)

(でも………迷惑かけたくないし…。)


心は揺れる。


気持ちを伝えれば
迷惑なんじゃないかな…

でも伝えるのを諦めたらずっと後悔するんじゃないかな…


あたしにとって人生で初めてのおおきな葛藤。

先輩のボールを追いかける姿が
どんどん遠ざかっていく気がした。


練習も終わり―後輩たちと楽しげに話している
先輩を見ていて思った。

(先輩って なんて温かい眼差ししてるんだろう。まるでお母さんみたいな温かい眼差し―。)

あたしも そんな眼差しで見つめられたら…


どんなにうれしいことか。

そんな光景を見たあたしは
そっと体育館を後にした。

(もう帰ろう。これからは先輩の受験がうまくいくことを祈ろう。)

教室へ向かう廊下で

背後から小走りに駆け寄る音がする。


「待って。」


嘘だと思った。


振り返ると

あの温かい眼差しが
あたしを見ていた―。


「せ、先輩どうして…?」
「ずっと見に来てくれててありがとう。応援してくれてありがとう。
それだけでも伝えたかったから―。」


先輩の感謝の言葉と

温かい眼差し。


秋の肌寒さが嘘みたいに
春みたいにあったかくなる。


心がポカポカする。


またきっと あたしの顔は赤くなってる。


「そ、そんな…お礼を言われるほどのことじゃないですょ…ぁはは。」


めいっぱい笑顔で話したいのに
緊張で笑顔もひきつる。
「そんなことないょ。
ずっとずっと見に来てくれたのユイちゃんだけだったし」
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