甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
目の脇に何かが動く影が見えたような気がした。

その方を見ると、大きな木の下にぽっかりと開いた穴。

その穴からさっきのウサギが一瞬顔をのぞかせた。

頬にべったりと張り付いた髪をかき上げその穴の方へ方向転換する。

もしかして、もしかするかもしれない。

稲光を背後に感じながらゆっくりと近づいていく。

そして、ウサギたちを驚かせないように小さな声で「ぷーすけ」と呼んでみた。

「キャン!」

激しい雨音に紛れてはいたけれど、間違いなくぷーすけの声がした。

どの方向からしたのかわからず、前髪をかき上げた状態で辺りを見回す。

「キャンキャン!」

ウサギたちの穴ある木の裏から丸くて黒い顔が現れ、私の方へ飛びついてきた。

「ぷーすけ!」

私はすぐにぷーすけを抱き上げ、「もう心配したじゃない」と言いながら、小屋のある方向へ無我夢中で走った。

本当に勘だけでよくここまでたどり着いたと思う。

私も動物なんだわ、きっと。

木でできた朽ち果てる寸前の小屋が目の前に現れる。

扉はついておらず、そのまま中に飛び込んだ。

とりあえず雷が治まるまでここで待機しよう。

玄関だったのだろうか。腰をかけるにはちょうどいい段差がありその向こうに板張りの廊下と部屋が続いている。

その玄関の段差に私はぷーすけを抱いたまま座った。

外ではまだ激しく雨が降り、雷が鳴っている。

膝の上に抱くぷーすけは小刻みに体を震わせていた。

雷の恐怖とこの雨の冷たさで震えているに違いないわ。

私はぷーすけを覆うようにしっかりと抱きしめる。

「ごめんね。間宮さんと話すのに夢中でぷーすけをほったらかしにして」

ぷーすけは丸い目で私を見上げ、びしょぬれの腕をペロッと舐めた。




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