甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
私は努めて冷静に答えた。

「間宮社長が出張の間、留守を頼まれています。パーソナル・サポートのサポートみたいな感じ、でしょうか」

私が間宮さんのこと気になってるだなんて誰にも知られたくない。

あくまで私は間宮さんからの依頼を引き受けただけ。

安友さんは私が気がかりに思っているなんてことは特段気に留める様子もなく首を傾げて尋ねる。

「社長が留守の間、あなたが家を守っていないといけない理由でもあるの?」

「はい、間宮さんが預かっている犬のお世話をしなくちゃいけなくて」

「犬?ってあのぷーすけのことかしら?」

「ええ、そうです」

安友さんはなぜかぷーすけのことを知っていた。

「あなたがぷーすけの世話をしているの?」

安友さんは目を丸くしながらお茶をすすると続けた。

「ぷーすけはなかなか人に懐かなくて間宮社長も随分手を焼いていたけど」

「そうなんですが、なぜか私にはすぐ懐いてくれて」

「あらまぁ。広瀬さんってやっぱりただものじゃないわね」

安友さんはくすっと笑うとお茶をテーブルに置く。

ただものじゃない?どういう意味だろう。

今までの経験上、単純にその言葉から誉められているようには受け取れなかった。

「あの、どういう意味ですか?」

なんとなく、安友さんには素直に聞けるような気がして聞き返す。

「特別、ってことよ。ぷーすけにしてもうちのジョンにしてもなかなか人に懐かない犬があなたのことはなぜだか受け入れる。それは間違いなく特別な何かを持ってるからだわ」

安友さんは、優しく微笑むと私の手を取った。

「犬が好き?」

「はい、好きです」

「じゃ、犬に関係する仕事につくといいんじゃない?あなたならきっと誰より向いてる」

犬に関係する仕事って。

自分に特別な何かがあるのかどうかはわからないけれど、自分が向いている仕事があるだなんて考えたこともなかった。
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