甘くてやさしくて泣きたくなる~ちゃんと恋したい
「犬に関係する仕事ですか?」

「どんな犬でも手なずけられるあなたなら、例えばドッグトレーナーとかトリマーなんかもいいんじゃないかしら?」

「トリマー?」

「犬の美容師さんよ」

「はぁ、そんな仕事があるんだ」

なんだか他人事のように話を聞いていたけれど、美容師という言葉に、ふとまだ学生の頃、髪の毛を結い上げてあげた友達からすごく誉めてもらったことを思い出す。

自分の手で、誰かの髪がきれいに変化していくことにワクワクしていた記憶。元々何かにワクワクするなんてことがあまりなかったから、自分でもその感情に驚いていたっけ。

その時、友達に「美容師になったら?」って言われたけれど、人と向き合うのが苦手な私にはとてもそんな職業は考えられなかった。

でも、犬の美容師なら?

ぷーすけの丸くてキョトンとした目が浮かぶ。

あれ?そういえば今何時?

リビングのローチェストの上の置時計に目をやるともうすぐ午前0時になろうとしていた。

「早く帰らなくちゃ。すみません、そろそろ戻ります」

いつの間にかこんな時間になっちゃってる。

ぷーすけがきっと寂しがって待ってるわ。

私は急いでお茶を飲み干すと、ソファーから立ち上がった。

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