図書館
別れ
そんなことくらいで、だめになるなんて、
おれは思いもしなかった。

何日も、あいつの家の前で待ったけれど、
あいつは帰ってこなかった。

帰ってきたのかもしれないけれど、
おれを見て戻るのをやめたのかもしれない。

そう思っておれは隠れて待った。

でも、いつまでたっても
あいつは帰ってこない。

電話にもでない。

おれはあいつの実家がとなりの県の、
海の近くだと思い出して、
となりの県の海岸を、
端から端まで歩き通した。

それは楽しくなんてなかったが、
辛いことでもなかった。

南の端から北の端まで、
歩いても全然見つからないから、
次はその沿岸を走る、電車の駅を全て訪ねた。

全ての駅前を一日歩いた。

かなりの日数、探し続けた。
でも、やはりあいつには会えなかった。

春が過ぎ、季節が巡り、また春がやってきた。

おれは、あいつを探すのを諦めた。

久方ぶりに家に帰った。

あいつを思い出すのはもうやめた。

でも、忘れようと思っても、
パチンコをしても料理をしても、
思い出してしまうんだ。

楽しかった暮らし。
幸せそうだったあいつの笑顔。
幸せだったおれ。

あんなに幸せだったのに。
今のおれは幸せじゃない。

あんなに幸せだったのに。
もう二度と手に入らないのか。

おれは毎日、そう考えて泣いて眠った。

でも、ある日、おれはとても幸運だった。
あるいはとても不幸だった。


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