図書館
美しいもの
おれとあいつは仲が良かった。
いつもあいつはおれの右前を歩き、
おれはその後ろを手を引かれて歩む。

あいつの行きたいところは、
大抵おれの行きたくないところだから、
外に出るとすぐ喧嘩になる。

でも、それもすぐに仲直りだ。

あいつは歩くときに、必ずおれの手を握った。

おれは、あいつの髪が好きだった。
手入れのされた、短いけれど、美しい髪。
シルクというよりも化繊のような
素晴らしいしなやかさで、
とても美しく清らかな髪だった。

あいつはおれの手を握って、
おれはあいつの髪を触った。

二人でパチンコに行ったことがある。
初めてのパチンコで負けて負けてのあいつに、
おれが出てる台を替わってやって。

ニコニコしながら打ってたなあ。
あれはきっと嬉しかったんだと思うよ。

結局ほとんど勝つことはできなかったけれど、
あいつが嬉しそうだからおれも満足だったんだ。

料理を作ってくれたこともあった。

ある日突然野菜を持ってきて、
チーズの入った変わったサラダを作ってくれた。

二人で川のほとりに座って、
ずっと好きだって言い続けたこともあった。
おれが言ったら、あいつも言って。

川に流れる車のサイドミラーを見て、
あいつは亀だと主張した。

おれはこんなに汚い川に
亀なんているわけがないと思った。
でも、あいつがあんまり亀だって言うから……

案の定、拾ってみたらサイドミラー。
大きな声で、楽しそうに笑うあいつの声、
忘れないよ。

あいつは美しいものが好きだった。

山に登って花を見るのも、
美術館で展示を見るのも好きだったな。

服屋に入ったら出てこなくなって、
すごく待たされたことが何度もあった。

おれはきれいなものになんて興味がない。
もちろん、あいつの髪以外にはってことだけど。

趣味が合わなかったのかも知れないな。

で、一番趣味が合わなかったのは、
それは、あいつが読書家で、
おれが本を嫌いなことだった。

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