桜の木に寄り添う

最後のカフェオレ

なつみ……

 ヒロキは、全て分かっていた。
 妹に言われた事。よっちゃんから聞いていたから。

 傷ついたなつみがついた小さな嘘に気づき、ヒロキも胸を痛めていた。
 それと同時に、自分に心配をかけないように気を使っているなつみが愛おしくてたまらなかった。

 そんなヒロキの思いにも気づかず、なつみは離れようと決めていた。
 私と一緒にいると、ヒロキくんは幸せになれない。
 妹の言葉を真に受けてしまったなつみは、今のこの時間を最後にしようとまで考えてしまっていた。

 少しだけ一緒にいさせてください。
 このカフェオレを飲み終えるまで……
 もう一緒にこうやってこういう時間を共にする事はきっとできない。
 寂しさやせつなさ、沢山の思いを私はこれからも背負っていくのかもしれない。
 でもそれは仕方ない事。となつみは自分に言い聞かした。

 そんな思いを抱きながらなつみは、ゆっくりゆっくりと飲み進めていた。

 飲み進めていくうちに、ある事を思い出した。
 それは、あのおばあちゃんの事だった。
 おばあちゃんの骨董品店に、ヒロキくんは連れて行けない。

 おばあちゃんに連れていくと約束してしまったなつみは、約束を果たせない事が申し訳なくて仕方がなかった。

 おばあちゃん、本当にごめんなさい。でも理解して下さい。私のこの勝手な気持ちを……

 私はずるいかもしれない、だって全ての感情をなかった事にしたのだから。

 すれ違う気持ちがなつみには、耐えられなかった。
 ちゃんとした思いをいつまでも伝える事が出来ないまま、お互いの気持ちも分からないまま、なつみは離れる事を選んだのであった。
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