桜の木に寄り添う

止まらない涙

カフェオレを飲み干し、カフェを出たなつみはヒロキにこう伝える。

「 ヒロキくん、私はこっちだから…… 」

 なつみは違う道を選択したのだ。
 もうこれ以上、一緒にいることはつらかったのだろう。
 ヒロキは、何も知らずにマンションの方へと歩き出した。

 なつみは、曲がり角まで進み止まって下を向いた。涙が溢れ出てきてしまっていたからだ。

「 ヒロキくん、ごめんなさい。ありがとう 」

 なつみは、誰にも聞こえないような小さな声でそう言った。

 今までの記憶がどんどん蘇ってくる。

 小さい頃の記憶……
 再会してからの記憶……
 楽しかった事や辛かったこと……
 様々な記憶が蘇ってしまっていた。

 昔の記憶のままが良かったのか、再会しない方が良かったのではないか。

 なつみは、涙が止まらなかったが前を向き始めた。
 カタカタカタカタ……

 向かった先は、骨董品店だった。

 カランカラン

「 すみません 」

「 はぁい 」

 いつもながら、おばあちゃんが奥の部屋から出てくる。

「 なつみちゃん、どうしたの? 」

「 おばあちゃん、私は……私 」

 おばあちゃんは、瞼を腫らしているなつみを見て泣いていた事にすぐ気がついた。

「 なつみちゃん、奥の部屋へおいで 」

 おばあちゃんは、そう言いなつみを奥の部屋へと案内する。

「 なつみちゃん、何があったのか知らないけれど泣いていては駄目よ 」

 奥の部屋へと向かう途中、おばあちゃんは話しかけてきた。

「 私はもう決めたんです 」

「 私はね、お爺さんが亡くなった時。泣かなかったのよ。お爺さんがいつも言っていた事があるの」

「 いつも言っていた事? 」

「 うん。それはね…… 」

 ガチャン!!!!

 少し言いかけた所で、おばあちゃんはふらっと倒れてしまう。

「 おばあちゃん!? 」

 なつみは、手を震わせながら慌てて携帯を取り出し救急車を呼んだ。

「 おばあちゃん、すぐ救急車くるから 」

 声と手を震わせたなつみは、車椅子からドンと落ちるようにしておばぁちゃんの近くへと寄り添った。

「 おばあちゃん、大丈夫だからね。すぐ来るからね。だからどうか……いなくならないで 」

 おばあちゃんの手を握り、なつみは一生懸命話しかけた。
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