桜の木に寄り添う

決心

次の日の朝、目が覚めた時、机の上に手紙が置いてある。
 その手紙は、なつみが書いたものだった。

『一人で先に帰ります。なつみ』

 あいつは一人になりたかったのか。そうふと思った。俺はすぐに電話をかけた。

「もしもし。ヒロキくん?」

「今どこ?」

「電車を待ってるところだよ」

「今行くよ」

「いいの。来ないで。一人で帰りたいから」

「……わかった」


 優しくしてくれるのはありがたいことだと思う。
 嫌がらせの事もあって早く解決したい。そんな気持ちでいた。

 私は一人になりたくて、一人で帰りたかった。
 あまり人も乗っていない早朝に電車に乗った。

 楽しかったけど、やっぱりあの嫌がらせからも逃げてはいけないことだと思う。
私が誰かを傷つけてしまっているのを、きっと教えてくれたんだよ。
 みんなに優しくされているからって、甘えていた自分が許せなくなってしまったのだ。

 ボーっと電車に揺られこれからのことを考えていた。

 やっぱり何もなかったことにはできないよ。
 犯人はわかっていたから。

 携帯を取り出し、メールを打ち始めた。

<話しましょう。あのカフェで今日の夜、待っています。>

 安西さん、来てくれるかな。でもこのまま嫌がらせを受けるのはやっぱり耐えられない。

 友達になった日の事を思い出していた。
 安西さんは、初めから知っていて近づいてきたのかもしれない。
 そんな嫌なことばかりを考えてしまう。

 私が好意を持ってしまったのもきっと気づいていたんだ。

 私は、安西さんを傷つけてしまったんだ。
 謝らなきゃいけない。そう思っていた。

 少しの間だったけど懐かしくて、楽しかった。
 いい思い出として胸にしまっておこう。

 私は、あの家から出ていこう……。


 ゆったりした電車の中で窓の外を眺めながら、そう決心した。

 私の気持ちとは裏腹に、窓の外は、綺麗な風景だった。たくさんの緑や川や、綺麗な空。
 もっと清々しい気持ちで見れたらいいのに。
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