ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
1. 疑惑

『アットホームな雰囲気の、すごくいいところなのよ?』

お母さんの未練たっぷりな声が、受話器から聞こえた。

里帰り出産で、いろいろ世話を焼けるって期待してたらしい。
そのつもりはないって言ってるのにな。

さっきからずっと、妹の時お世話になった助産院をぐいぐい勧められて……
ダイニングの椅子、その背もたれに体重を乗せて、吐息をつく。

確かに初めての出産だし、実家の方がなにかと安心かもしれない。
でも今は、少しでも彼と一緒に過ごす時間が欲しいっていうのが本音だ。

「通いやすい位置に総合病院があるから、そこにしようと思って。土曜日でも検診してもらえるから、仕事に支障も出ないしね」
『仕事、続けるつもりなの? 大変じゃない?』
「大丈夫。ちゃんと上司と相談して、無理しないようにするから」
『でもほら、マタハラっていうの? 妊娠したら会社にいづらくなって、とかいう話、近所で聞いたけど』
「新条部……うちの上司はしないってば」
『そんなこと言って。まだ話してないんでしょ? だったらわからないじゃない』
「早めに話すけど、でも大丈夫よ。すごく信頼できる人だから」

うん、それは心配してないけど――……
答えながら、ふと考える。

誰にいつ知らせるか、これって結構大きな問題かもしれない。

同僚やクライアントに、そんなに早く言うのも、って気はするし……
でも新条部長にだけは、早めに知らせておこう。
迷惑かけたくない。

友達は……どうかなぁ。

考えたくはないけど、何があるかわからないから。
安定期に入るまで待った方がよかったり、するんだろうか。
でも、出産経験ある友達も結構いるし、いろいろ相談したいな……

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