ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】

「そろそろ彼が帰ってくるから切るね。お父さんにもよろしく伝えてね、じゃあね」

お母さんが若い頃は……と始まってしまい。
延々続きそうだったから強制的に打ち切って、視線を動かした。

その先にあるのは、今日撮ったばかりのエコー写真、その足でもらってきた母子手帳とマタニティマークだ。

見つめていると、胸の奥からジワリと、幸せがこみあげてくる。


――わかるかな? ここで動いてるのが心臓ね。

病院で見せてもらった赤ちゃんの画像。
3か月目に入っているという赤ちゃんは、やがて人の形になるなんて想像できないくらいぐにゃぐにゃと小さく、頼りなく……とてつもなく愛おしかった。

母親になる。

まだ信じられない……自分にそんな日が、来るなんて。
30の誕生日を過ぎた時、一生縁はないかもなって覚悟したのに。
人生って、驚きの連続だ。

正直なことを言うと、今までは親になる自信なんてなかった。
甥っ子や姪っ子は確かに可愛かったけど、親になるってことは、“可愛い”だけじゃダメだって思ったから。

でも……不思議だな。
今もまだ、自信はない。けど、迷いもなかった――母親になることに。
ごく自然に、当たり前のこととして受け入れてる自分がいる。
そんな変化には、まだちょっと戸惑うけど。

きっと全部、ライアンのおかげよね。
彼がいてくれるから、彼と家族になるから……。

お腹に手を当てて、心の中でつぶやいた。
キミと会える日、パパもママも楽しみに待ってるからね。

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