ガラスの靴は、返品不可!? 【後編】
7. worse, and worse

会社に、来てない? どういうこと?

意味が飲み込めずに瞬きを繰り返す私を、気づかわしげなアーモンドアイが見下ろす。

「イライザ・バトンとの報道が出た時に、会社までマスコミが押しかけてきて。仕事にならないから、しばらく在宅勤務に切り替えてたんですが……今週に入ってあの、ミュージシャンの女性の名前が出て。そしたら、あいつからメールが来たんです。『これ以上迷惑かけられないから、クビにしてくれ』って」

「く、くび……?」

拓巳さんは落ち着いて首を左右に振った。
「もちろん、クビになんかしませんよ。一応、休職ってことにしてます。ただ、すべての業務から一旦退くってことにしました。今日もこれから、オオタフーズの担当者にその旨の報告に伺うところなんです」

すべての業務から、退く……
そんなの私、何も聞いてない。
どうして相談してくれないの?

覚束ない足元へ、なんとか力を込める。

「飛鳥さん? 大丈夫ですか」
「だいじょう、ぶ……です。あの、……ご迷惑をおかけして、ほんとに申し訳ありません」

掠れた声で言う。
何考えてるんだろう、彼は……

「やめてください。あなたが謝る必要はない。でも……」

私が顔を上げると、拓巳さんはしばらく言葉を探すみたいにくしゃりと髪をかき上げてから、視線を戻した。

「オレが言うまでもないかもしれないですけど……」
「はい?」

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