恋愛コンプレックス
「その人、颯爽と私の前に現れて、ものの五分で告白してきたのよ。なんかの罰ゲームかなんかだと思って最初は相手にしていなかったんだけど、毎日会社に現れては付き合ってほしいっていうから、デートすることにしたの。ちょっといいイタリアンのお店で食事したらまるで前世でも知り合いだったようにすぐに打ち解けたわ。話が尽きなくて、お店を変えても話題を変えても驚くくらい考え方から価値観までぴったり一緒なの。」
 そこで息継ぎをして彼女たちを交互に見てみると二人ともまだ私の言わんとしていることが読みあぐねているようだったので私は仕方なく続けた。

 「結局、その帰りに再度付き合って欲しいといわれたから、私はイエスと言って付き合いが始まったんだけれど、なんだか、怖いほど完璧なのよ。新手の詐欺か何かとしか思え、なく、て。」
 最後の方は二人の痛い視線に押されてしどろもどろだった。

 「要するにこれはあれかしら、のろけ以外のなにものでもないわね?」
 ハズキがマスターに必要以上の大声でマティーニを頼んだ。

 私は否定しようとしたが、敦子がそれを阻止するように言った。

 「もも、やっとあなた運命の人に出会えたんじゃない。何をそんなにおびえているの?」
 私の肩に手をやって言うと敦子は自分の思想の裏づけをとるような真剣な目をした。
 「その人には出会うべくして出会ったんだから、大事にしなきゃ。私は応援する。今までの腑抜けどもは彼に会うための、たんなる通過点だったのよ。自信もちなよ。」

 するとハズキも浅い溜め息をついて言った。

 「本当よね、もういい男なんてこの世から絶滅寸前だと思っていたのに、まさかももの前に現れるなんて、なんだか腑に落ちないけど、これはめでたい事だわ。」
 はずきはマティーニのグラスを私のギムレットに重ねて乾いた音を響かせた。

 「でも、やっぱり出来すぎじゃない?」
 非難を煽るのを承知で私はいった。二人とも、けんもほろろな表情で私を見た。
 「負け続けるとここまで臆病になるものかしらね、あんたそれって正真正銘の」

 そういうと二人は顔を見合わせて、声を揃えて言った。


 「恋愛コンプレックス。」
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