恋愛コンプレックス
夢と現実
昨夜はハズキがお祝いだと言って随分と飲んでしまったので、頭が割れるように痛い。
 これも年の表れだろうか。二十代前半のころは朝まで飲んでそのまま仕事へ行ったって平気だったのに。
昨夜、深夜過ぎに自宅へ戻ってから携帯に伝言が入っていることに気づき、慌てて再生ボタンを押した。

 「征矢です。夜分にすいませんが、明日のご都合は如何でしょうか。もしもお時間があれば夕食を食べに行きませんか?何時でも構わないので、電話ください。」

 聞きなれているようないないような、低くて甘い声に一瞬くらっとしたが、私は時計の針を見て溜め息をついた。鼻息荒く行くといいたいところだが、さすがに深夜の三時過ぎに電話を折り返すのは失礼だと思った。

 私は軽くシャワーだけ浴びるとリビングに置いてあるスチームの前に座った。
彼はとても端正な顔立ちをしているどころか強靭の美肌でもある。女の私も完敗なほどに。繊細そうな肌理の細かさに思わず不躾に見つめてしまった。
 だが、羨ましがってばかりもいられないのである。彼氏なのである。そして私は今、その人の彼女なのである。
 私はドンキホーテに走り、美容によさそうなものは片っ端から買いあさった。外見から入ってしまうところが哀しいが、戯言も言ってられまい。私は猶予ある片思いではなく、既に裸で戦場に飛び込んでしまったようなものなのだ。
 今まで糞詰まり同然の男に泣かされてきた日々を返上するのも洗浄するのも、きっとその鍵は彼こそが握っているんだわ。
 私は夢心地にスチームの蒸気を顔から首筋にかけて浴び、時折美容液を重ねて浸透させた。瞼の裏で征矢さんが白い王子ルックで微笑み掛けているのが見えたころ、私は既に眠りに落ちて、いた。


 
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