ストーリー
☆☆☆

昼ご飯を食べたあたしたちは、アトラクションに並んでいた。


これからがデートの本番だけれど、あたしの心は浮かなかった。


「愛奈、どうした? 体調でも悪いか?」


健太郎にそう聞かれて「ううん、大丈夫」と、左右に首をふる。


チラリと健太郎の顔を確認すると、それは明日香の顔になってあたしに笑いかけてくるのだ。


あたしはすぐに健太郎から視線を逸らせた。


これは自分の思い込みだ。


隣にいるのは健太郎で、明日香じゃない。


必死でそう思うのに、明日香の顔は消えてくれない。


明日香の体は今頃どうなっているだろうか?


魚につつかれて、水でブヨブヨに膨れあがっているかもしれない。


「ほら、順番が来たぞ」


健太郎にそう言われて、ハッと我に返った。


いけない。


こんなことばかり考えているから、変な幻覚を見たりするんだ。


今は思いっきり楽しまなきゃ。


「うん」


あたしは笑顔で頷いたのだった。
< 89 / 195 >

この作品をシェア

pagetop