“自称”人並み会社員でしたが、転生したら侍女になりました
ガタゴトと鳴る車輪の音を聞きながら、会話もなく静かな中で時間を過ごす。

先に口を開いたのは、ミシェル様だった。なぜか深々と頭を下げ、謝罪する。

「エリー、私の個人的な事情に突然巻き込んでしまい、申し訳なかった」

「いえ、ラングロワ侯爵家の大奥様にも頼まれましたので」

そう答えると、ミシェル様はわずかに形のよい眉毛を下げて言った。

「やはりエリーは、私が困っているから、来たわけではないのだな」

「使用人である私に、決定権はありませんので」

「そうだったな」

まさか、ラングロワ侯爵家の大奥様にお願いされたから渋々やってきたと思っているのか。もちろん、ミシェル様をお助けしたい気持ちもあった。

ただ、生涯ラングロワ侯爵家の大奥様に仕える宣言をしたあとだったので、ちょっとだけ悲しくなったというか、なんというか。

「でも、なんで私だったのですか?」

「父を亡くした母を、元気づけてくれただろう?」

「あー……」

私がラングロワ侯爵家で働き始める前に、大旦那様が亡くなったのだ。ラングロワ侯爵家の大奥様は心から愛する大旦那様を亡くし、荒れに荒れていた。

食事も喉を通らないくらいで、騎士舎に住んでいたミシェル様が心配して頻繁に様子を見に来るほどだったのだ。
< 10 / 238 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop