来世はセロリになりたい、
「凛子、部活行こー」

友達に言われて、やっと終わった授業に別れを告げると、部室に向かった。
部室に着くと、彼女が居た。
顧問の割にいつも部屋にはいない彼女は、何人かの生徒と話している。
茶色のミディアムボブの髪が、カーテンから漏れる木漏れ日に照らされて、神秘的だった。
インスタ映とか言われている景色や飲み物より何倍も美しいと思ってしまった私はJK失格だろうか。

「凛子きたきたー!」

話していた生徒は私を呼ぶと、
「先生、この子は?」
と私を彼女の元に出てきた。
彼女と目が合う。
目元が熱くなる。
余程苦手なのだろう、目も合わせられない。
話は私にはなんの事だかさっぱり分からなかったが、友達は何やら少し期待している。

彼女は少し微笑むと、
茶色の髪の毛を耳にかけた。
木漏れ日が隠れてしまった、勿体ないと思っていると、艶がある唇が少し空いた。
こちらを真っ直ぐ見て、大っ嫌いな声で彼女は言った。

「セロリ、かな」



友達の話によると、生徒を食べ物に例えるならばという話をしていたらしい。
そこでたまたまきた私を呼んだのだ。

私は彼女が嫌いだ。
彼女は私にだけ厳しい。
彼女も私のことが嫌いだ。
まあ好きな人間を食べ物に例えてセロリとは言わなだろう。
セロリってなんなんだ、セロリって。
友達は少し申し訳なさそうな顔をしていた、笑ってくれた方がいいわと言うと、好きでもないタピオカを奢ってくれた。

ただでさえ大っ嫌いな彼女を私はもっともっと嫌いになってしまった。

そんな中、気がつけば入学して2ヶ月。
来月のコンクールに向けて我が吹奏楽部は気合が入っていた。
オーディションの結果は御察しの通りだ。
ただ問題がひとつ。
彼女は私にだけ厳しい。
私は楽器が特別下手な訳では無いだろう、一応3年間しっかり練習してきた。
しかし彼女に嫌われているだからだろうか、

「凛子さん、1人でそこ、もう1回吹いてみて」

コンクール期間だからか、先輩も彼女も少しピリピリしていたからだろうか、彼女の機嫌が悪い。
面倒くさい、それを生徒にぶつけてこないで欲しい。

「もっと、感情込めて吹けるかな、大切な人を思いながら吹いてみて。」


私を励ますために咲いてるかのように向日葵がこちらを覗く。
大切な人、大切な人、大切な人。


そう言われた時、何故か彼女を考えてしまった。



「すごく良くなった。じゃあ次はトロンボーン、一人づつ、」

大っ嫌いな彼女はやっぱり綺麗で、

木漏れ日に当たるともっと綺麗で。

少し暑いからと袖をまくって、暑そうにしている彼女も綺麗で。

ちっとも優しくないし、すぐ機嫌を損ねる彼女はやっぱり綺麗で、

どんな事があっても彼女を意識してしまった。


これはもしかしたら。なんて思ってしまって。


いや、そんなはずはない、大っ嫌いな人間のはずだ。

きっと私がおかしいだけ。
彼女は先生。
彼女は女性。
ありえない、

とにかく私は吹いた。

彼女を忘れるために。

けれど彼女を浮かべてしまった。

なんだろうか、これは、なんだろうか、





嫌でも彼女を見てしまう。
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