新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
『ちょっと話聞こえちゃった。大変だったねー越智くん、いろいろ』



またもや笑いながら話しかけた私に対し、越智くんはなぜか気まずそうな表情ですぐには答えない。

不思議に思って小首をかしげたとき、彼が持っていたグラスを置いて口を開く。



『「最低だ」って、罵らないのか?』

『ん? どうして?』

『その……結婚するつもりないこととか、それなのに女と付き合ってたこととか』



私の方は見ずに視線をテーブルに落として、越智くんがポツポツと言った。

その答えに、私は顎に片手をあてながら『うーん』と考える素振りで斜め上を見る。



『だって、越智くんにはそう考える理由とか事情があるんでしょ? 価値観なんて人それぞれだし、生涯独身を貫くのを決めてることが悪だなんてことないと思う』



そこまで言って、今度は彼の顔を見ながら続けた。



『それに、越智くんは自分の考えを最初にちゃんと彼女さんに伝えてたんだよね? なら、「最低だ」なんて責められる謂れはないよねぇ』



むしろこの場合の被害者は越智くんでは……?という気すらするので、表情と声には自然と労る気持ちがこもる。

そんな私を、越智くんはメガネの奥の目を丸くして見下ろしていた。
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