新妻ですが、離婚を所望いたします~御曹司との甘くて淫らな新婚生活~
目覚めてから毎日、不安でいっぱいだった。

このまま、記憶が戻らなかったらどうしよう。検査ではわからなかっただけで、本当はもっと重篤な疾患が私にはあるんじゃないか。

考えだしたらキリがないくらい。悪い想像ばかりが頭に浮かんで、思うように眠ることができない日もある。

だけど、たぶん……今の私にとって、何よりも信じられるのはこの人の存在だ。

この人だけは、何があっても私の味方でいてくれると──出会ってから今日までの日々の中、それだけは、確かなものとして心の拠り所になっている。

目じりに浮かんだ涙を、手の甲で拭う。

それから私は──おそるおそる、控えめに、キュッと皐月くんの左手を掴んだ。

瞬間、彼が息を呑むのがわかる。



「ありがとう、皐月くん。あの、すごく今さらなんだけど……不束者ですが、よろしくお願いします」



言葉の最初の方は目を泳がせながらになってしまったけれど、後半の言葉は、なんとか顔を見上げて言うことができた。

よかった。ちゃんと、目を見て伝えられた。

達成感に少しだけ緊張が緩んだ私は、硬直する彼の前で小さく微笑む。

すると、皐月くんの左手に触れていた手が逆に強い力で握り返された。
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