【社内公認】疑似夫婦-私たち(今のところはまだ)やましくありません!-

 技術開発室はプロジェクトルーム以上にセキュリティーが厳重で、社員証は勿論のこと、その他に数字のパスコードも必要になるらしい。斧田さんは慣れた手つきで数字パネルを操作し、技術開発室のロックを解除する。

 自動で開くドア。入ってすぐのところに、見るからに高級そうな一台のベッドがディスプレイされている。

「ほわぁ……」

 私は思わず口を開けて感嘆してしまった。ベッドだ。当たり前だけど。

 見た目は〝ただの高級ベッド〟だけど、まだ世に出る前の新製品を社内でもいち早く目撃しているんだと思うと興奮する。

 それは森場くんも同じようで、彼は絶句したままベッドの反対側に回り込み、ベッドの傍にしゃがんでスプリングの弾力やマットレスの下の構造を確認しながら目をキラキラさせていた。

「斧田さん……これ、かっけぇ!」

 斧田さんは森場くんの反応や感想に大いに満足し、鼻高々で言う。

「色味や質感はまだまだ調整が必要だが、機能はほぼ百パーセントに近いと自負している」

「いやぁ……いいッスよ。これまでのシリーズに負けないくらい洗練されてて……寝てみてもいいですか?」

 そう言いながら既に靴を脱ぎかけている森場くん。たとえ斧田さんが「ダメ」と言ってもベッドに飛び込みそうな勢いだ。これにはさすがに斧田さんも苦笑しながら、「もちろん、いいよ」と返事をした。
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