また、いつか
その後ー。

幸姫の形見として贈った着物によって、初めて幸姫の父重定は治憲・幸姫夫婦の実態を知ることになる。

実父ながら隠居して国元に暮らす重定は、江戸に暮らす娘とは幼い頃に会ったきりだったのだ。

形見によって初めて娘が未発達な幼女並みの女性だったと知った重定は、治憲のその愛情深さ、清廉潔白さに慟哭した。


幸姫を亡くした後の治憲は、国元の側室との間に生まれた子供にも先立たれ、35歳の若さで義弟に藩主の座を譲った。

崩壊寸前だった米沢藩を再建し、常に民を思い、自ら率先して質素倹約に努めたその姿は江戸時代屈指の名君と讃えられ、今も尊敬の念を集めている。

かのケネディ大統領にまで、
『日本で最も尊敬する政治家』
と言わしめるほどに。



幸姫を亡くした後40年、72歳(満70歳)まで治憲は生きた。

幸姫と過ごした日々は僅か13年。

しかも半分は参勤交代で別居。

だがその長い後半生も、幸姫と過ごした日々の思い出は彼を癒し続けたことだろう。


幸姫もまた、障害を抱え30年という短い生涯ながらも、治憲という希有な夫に愛され、幸せな結婚生活だったのではないだろうか。


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