また、いつか
「よし!よし!
逝かないでくれ!
私を置いて逝っては駄目だ!」

治憲の悲痛な声が木霊する。


「よし、頼むから、私のそばにいて」

頬を撫でながら、治憲が幸姫に呼びかける。


「泣か…、ないで…」

苦しい息の下から、幸姫は治憲の頬に手を伸ばす。

微かに微笑む様は、正しく天女の様だ。

治憲を案ずる姿は、この最期の瞬間に、いかにも年相応の、まるで障害なんてなかったような、正気に戻ったような姿だ。


「なお…、また、いつか…」

幸姫の唇が確かにそう動いた。

奇跡のような言葉に、治憲の双眸から涙が溢れる。

幸姫の手をしっかりと握ると、
「ええ、ええ!」
と大きく被りを振った。

「必ず!必ず!
後の世でも、必ずまた会いましょう。
会ったら、また夫婦(めおと)になりましょう」

「めお…、と…?」

「ええ。
必ず見つけるから!
探し出して、貴女を絶対に私のお嫁さんにしますからね」


「よ…、め…」

「ええ。
お嫁さんですよ、よし。
貴女は永遠に私のお嫁さんだ」

「な…、お…」


やや焦点の合わなくなってきた幸姫は、それでも必死に治憲を探しているようだった。


「私はここにいますよ。
ずっと貴女のそばに」


ーああ、私の天女は逝ってしまうー


もうほぼ意識を手放した彼女の唇に、治憲は自分の唇を静かに重ねた。


最初で最期の口づけ。


「愛しているよ、よし」


天女は微かに微笑んで、そして、永遠に意識を手放した。

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