焦がれる夜に、あなたのキスを。【完】番外編更新

カランッ!いつもより大きくドアベルが鳴った。

「マスター、こんにちは」

「いらっしゃい和花菜ちゃん……って、ずぶ濡れじゃないか!」

マスターがグラスを拭く手をとめて足早にカウンターから駆け寄ってきた。

動揺するマスター見るの、久し振りかもなんて頭の片隅で考える。

「あはは、会社出るときちょうど通り雨が降ってきて」

夏だからか、突然雨が降り出すことが多い。でもここまで大雨になるとは思わなかったなぁ。

「傘は?持ってないのかい?」

「同僚に貸しちゃいました。まあすぐ止むかなって思って」

ここら辺はコンビニもないし、今回のためだけに傘を買うのもな、って躊躇してしまったから。

「だからってねぇ、和花菜ちゃん」

「それより、頼まれてた資料届けにきましたよ。今度開催するイベント用のサイト原案」

マスターにできたての資料を手渡す。

「もしかして、これを届けるためにわざわざ……」

「すぐに渡した方がマスターも計画しやすいでしょうし、明日明後日は出張なので」

自分は濡れても構わないけど、資料は濡れないようにと細心の注意を払って持ってきた。
< 29 / 242 >

この作品をシェア

pagetop