焦がれる夜に、あなたのキスを。【完】番外編更新
「ありがたいが、その格好のままじゃ帰れないだろう……」
「頑張れば帰れますよ。ここから家近いですし」
「いやだめだよ。成宮、ちょっといいかい」
「はい」
女性のお客さんの相手をしていた成宮さんがマスターに呼ばれて、すぐにこちらへ来てくれる。
「はい、どうしました?」
「和花菜ちゃんが雨に濡れてしまったから、裏でタオル貸してあげなさい」
「もちろん。和花菜さん、こちらへ」
もう役目を果たした達成感で濡れたことも気にならなくなっていたけど、改めて見ると酷いかも。
「……はい。すみません」
「お気になさらないでください」
やっぱり、バーで働く時の成宮さんは優しくて格好いいお兄さんだ。
スーパーで会った時みたいな態度は微塵も出さない。
「足元には気をつけてくださいね」
エスコートも完璧。
私のことを気にかけつつも、バックヤードに案内してくれる。
お店の裏はこういうつくりになってるのかと、ついつい周りを見回してしまう。
「取り敢えずここの席に座っていてください。カーディガン、乾かすので脱いでいただけますか?」
ブラウスの上に羽織っていた薄手のカーディガンは、雨のせいで色が変わってしまっている。