焦がれる夜に、あなたのキスを。【完】番外編更新
成宮さんはおもむろにスタッフ用のロッカーを開けて、薄手の黒のカーディガンを取り出した。
「これ、俺のなんですけどよかったら着ていってください」
待って、え?着ていってください?
一瞬自分の耳を疑った。
「そこまでしていただくのは申し訳ないです!」
「一度雨に濡れてしまっているんですから、風邪を引いたら大変です。温度差で体は疲れちゃいますからね」
「でも……」
「和花菜さんが風邪を引いたら、僕は仕事に集中できません。ね?」
ずるい言い方だ。
そんな風に言われてしまったら、私は上手い断り方を知らない。
「本当に成宮さんがいいなら……、お借りします」
「はい」
成宮さんの黒のカーディガンに袖を通す。
ほのかに香る香水に、鼓動が早くなる。
これは彼シャツ的なやつか?とバカなことを考えてしまい、慌てて頭の中から消去。
彼氏でもないし、成宮さんは純粋な好意で貸してくれたのに何を考えるんだ自分は。
余計な考えを消してバックヤードから表へ出て、扉を開けた。
「和花菜さん、お気をつけて」
「成宮さんもお仕事頑張ってください。本当に何から何までお世話になりました!」