さよなら、Teacher
家族の楽しい夕食…ではなかった。
テーブルについた面々は、険しい面持ちで、そこに団欒の空気はなかった。
「秀則は、まだか」
上座にはヒロの父、久典(ひさのり)が腕組みをしている。
「飛行機が遅れたそうで、まもなく到着しますわ」
夫人は時計をチラチラみて落ち着かない。
ヒロは大人しくコーヒーを飲んでいる。
恵は居心地悪く、ヒロの隣に座っていた。
「若月さんは、確か上慧大学の四年生でしたな。どうですか、就職のほうは?」
久典が恵へと話題を振ってきた。緊張の上の不意打ちに恵は慌てて酷くどもってしまう。
「と、と、東京都の教員採用試験の、さ、最終合否の結果待ちです。東京は…し、私立の学校も多いので、そちらの求人も探しています」
「そうですか、早く決まるといいですね」
そこでまた、沈黙。時計の針の音だけが聞こえていた。