寂しがり屋の月兎
ふっと浮かんだ感情に一人慌てた。

そんなことを思ってもどうしようもないのに。

視線を下にやっていた望に、電車の中から兎田が手を伸ばした。

ふわりと望の頬に一瞬触れて、すぐに離れる。

それだけなのに望の鼓動が跳ねた。

「ちょっと名残惜しいね。……またね」

兎田が言った。閉まるドアの奥で手を振っている。

望は頬を押さえて赤くなっていた。

名残惜しいと、兎田もそう思っていたことが、望の胸を跳ねさせていた。

音を立てて去りゆく電車を、望は小さくなるまで見送った。
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