今宵、貴女の指にキスをする。

 目を丸くして驚くと、堂上はそれ以上距離を詰めてくることはなかった。

「楠先生があんなこと……部屋に連れ込もうとしたなんて。今までそんなこと一度もなかったんだ」
「……」
「何を言っても俺のミスだ。あのとき、二人だけで店に行かさなければよかった。そうすればこんなことにならなかっただろう。申し訳なかった」
「堂上さん」
「楠先生には今後このようなことがないよう、強くお願いしてきた」
「強くって……」

 楠に対する堂上の様子を思い出す。
 売れっ子作家でA出版の稼ぎ頭である楠に対し、堂上は丁重に接していた。
 その相手に堂上が物申したとしたら、大変なことになるのではないだろうか。

 心配して円香が聞くと、堂上は困ったように眉を下げた。

「本当……木佐ちゃんは相変わらずお人好しだな」
「え?」
「そんなんだから、色々な男が寄ってくるんだ」

 意味がわからない。小首を傾げる円香に、堂上は言いづらそうに切り出した。
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