今宵、貴女の指にキスをする。
11
「木佐ちゃん!」

 展望室に設置されているベンチに座り、相宮を待っているときだった。
 エレベーターの扉が開き、一人の男性が飛び出してくる。堂上だ。

 ずっと円香を探し続けていたのか。
 いつもは飄々としていて慌てる素振りなど一切見せない堂上が、髪を振り乱している。
 それだけ必死に円香を探していたということだ。

 だけど、堂上が今回のことを仕組んでいたとしたら……連れ戻される可能性がある。
 反射的に堂上から離れようとする円香に、「待って!」と縋るような声で堂上が叫んだ。

 その声に弾かれるように円香はその場で身体を硬直させたが、堂上は円香に向かって深々と頭を下げてきた。

「木佐ちゃん、申し訳ない」
「堂上……さん?」

 驚いた。それが円香の率直な気持ちだった。
 堂上がこんなに真摯になって円香に謝ってくることなんて一度もなかった。
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