今宵、貴女の指にキスをする。
12
 堂上がいなくなったエレベーターをどれだけの間、見つめていただろう。

 円香はふと我に返り、相宮に視線を送る。
 その瞬間、ドクンと胸が大きく高鳴った。

 相宮が熱っぽい視線を送ってきていたからだ。
 その視線の強さに、円香は立ち竦む。

「相宮……さん?」

 相宮はズカズカと足音を立てて距離を縮めると、円香の手を取った。
 驚く円香の手首をギュッと握りしめ、相宮はそのまま円香を引っ張ってエレベーターに乗り込んだ。

「相宮さん!?」

 いつもと違う雰囲気に円香はオロオロしっぱなしだ。
 何度か相宮の名前を呼ぶのだが、返事がない。

 エレベーターの中は、二人きりだ。それなのに相宮は口を開こうとしない。
 地上に下り、相宮はそのまま京都タワーを出て駅へと向かう。
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