今宵、貴女の指にキスをする。
「木佐先生、こんばんは」
「七原さん、こんばんは。やっぱり私は場違いじゃないかしら……」

 気後れしつつ担当編集者の七原に耳打ちすると、彼女は大袈裟に首を横に振る。

「何を言っているんですか!? 木佐先生。先生も我がA出版社の大事な大事な作家さまなんですよ! 堂々としていてください」
「えっと……」
「それに、お着物とてもよくお似合いになっています。いつもの木佐先生もステキだけど、和服姿の木佐先生もステキです!」
「はは……ありがとう」

 円香より二つほど歳が若い七原は、鼻息荒く熱弁する。それを見て、円香は少しだけ眉を下げてほほ笑んだ。

 では、また! と元気いっぱいな笑顔を見せた七原は、今日も忙しそうに飛んで行ってしまった。
 彼女の後ろ姿を見て、相変わらずの様子に苦笑する。
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