今宵、貴女の指にキスをする。
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(七原さん、嵌めましたね!)

 後で絶対に抗議してやる。
 円香は心の中で決意をしながら、ドリップコーヒーに湯を注いだ。

 七原が謝罪をしにきた翌日。
 七原が言っていた通り、相宮が次回作の装丁について再度話し合いが必要だと言われて夜になってやってきた。

 昨日の話では七原も同席すると言っていたのに、蓋を開ければ相宮だけだったのだ。
 玄関を開けた瞬間、相宮一人だけが立っていたのを見て円香が大慌てしたのは仕方がないことだと思う。

 確かに今日、相宮と色々と話すことが出来ればいい。そう考えていたことは事実だ。
 だが、心の準備が整っていない状況で、いきなり一対一で会うのは心臓に悪い。

 冷静な気持ちで話し合いができるとは、とても思えない。
 先ほどからバクバクと胸の鼓動が鳴り止まないでいる。

 どうしよう、と何度も心の中で呟いたことは、相宮には内緒だ。
 コーヒーを入れ終え、円香はリビングへと向かう。
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