今宵、貴女の指にキスをする。
15
 間接照明だけの寝室には、口づけの音が響く。
 お互いがベッドに向かい合う形で座り、相宮は先ほどからずっと円香の指にキスをし続けている。

「あ、相宮……さん」

 指先のキスだけでゾクリと背筋に甘い痺れが走り、円香の声が上擦った。
 まだ一度も唇同士が触れあっていない。ただ、相宮は円香の指にキスをし続ける。

 まさか指先だけで感情が蕩けてしまうなんて、と円香は驚きを隠せない。

「どうしましたか?」

 円香が何を言いたいのか。きっと分かっていてこの態度をしているのだろう。
 相宮はとても意地悪だ。

 ムッとして心の中で悪態をつく円香に対し、相宮はクスクスと楽しげに笑う。

「怒ったり、困ったり。木佐先生は負の感情だけは素直に出せるのですね」
「え?」

 何度か瞬きをして不思議がる円香に対し、相宮は苦笑した。

「まったく。木佐先生は難しい人ですね」
「そ、そうでしょうか?」

 ちょっとだけ不服だ。
 円香は再び眉間に皺を寄せると、相宮は指摘してくる。
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