今宵、貴女の指にキスをする。

「ほら、今の木佐先生はとても素直だ」
「それって……あまり嬉しくないです」
「でしょうね。でも、私の身にもなってください。ずっと貴女のことが好きで、なんとかして振り向いて貰おうと強硬手段にでていたのに。木佐先生はなかなか本心を出してくれないのだから」

 深くため息をついて、今までの苦労を語る相宮に、円香は目を瞬かせた。

「指に触れるのが強硬手段だったんですか?」
「ええ、そうですよ。一歩間違えれば木佐先生に嫌われる、仕事が出来なくなるかもしれない。そんな綱渡り的なことを考えながらでしたから」

 相宮は困ったようにクツクツと笑う。

 だが、言われた円香としては面白くはない。
 ムスッと膨れている円香に、相宮は茶目っ気たっぷりにほほ笑んだ。

「今だって、木佐先生が不機嫌なことはすぐにわかる」
「もう! そんなに苛めないでください」

 円香自身もよくわかっていることだ。
 感情が表に出ずに勘違いされることもしばしば、だからこそなるべく気をつけるようにしているのだが……
< 142 / 157 >

この作品をシェア

pagetop