今宵、貴女の指にキスをする。

「ところで、堂上さんは木佐先生のところには何か用事が? 確か、木佐先生の担当は七原さんですよね?」

 その通りである。円香は小さく頷いた。
 本来、堂上はすでに円香の担当ではないし、この場に来る理由などないはずだ。

 堂上は相宮の言葉に苦笑しつつ、円香にA4サイズの茶封筒を差し出した。

「これ、七原から。早急に欲しいと言っていた資料だそうだ」
「あ……」

 たぶん、月刊誌への連載関係の資料だろう。七原に電話で頼んだのは確かだ。
 だが、メールに添付してくれれば事は済んだはずである。
 わざわざ円香の自宅にまで来る必要はないはずだ。

 そう堂上に言うと、堂上はクツクツと笑い出した。

「まあな。メールで事足りるよな」
「その通りです。七原さんにもメールでいいと伝えたはずなのですが」

 そもそもこの資料は七原に頼んだもので、もし円香に手渡ししたいということで七原本人がここに来たのならわかる。
 だが今、円香の目の前にいるのは七原の上司である堂上だ。
 彼が来る理由が思いつかない。

 小首を傾げる円香に、堂上はニッと笑って口角を上げた。
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