今宵、貴女の指にキスをする。
「木佐ちゃんに会いたかったから来たんだけど?」
「は……?」
「俺、言ったはずだけどな。木佐ちゃん口説きたいって」
「っ!」

 確かに言われた。
 堂上がとんでもないことを言ったせいで、ここ数日円香の心は落ち着かなかったのだ。

 どこかでリップサービス、もしくは円香を動揺させて楽しんでいるのかと思っていた。
 だが、こうして何度も言われるということは、堂上は本気で円香を口説こうとしているのだろうか。

 口をポッカリ開いてあ然としている円香に、堂上は手を伸ばした。
 そして、ワシワシと犬を撫でるような手つきで円香の頭を撫でてくる。

「この前は七原のせいで口説けなかったし。こうなったら二人きりの環境を作って口説き落とさなきゃなぁと思ったんだが……」

 堂上は、チラリと円香のすぐ裏に立っている相宮を見て笑みを浮かべる。
 しかし、その笑みは好意的では決してなく、攻撃的だ。
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