今宵、貴女の指にキスをする。
 ここ数日。どんなふうに生きてきたのか、よく思い出せない。
 円香は相宮と喧嘩してから、うまく睡眠を取ることが出来ずにいた。

 そのことで困っている一番の問題は、執筆に支障が出てきていることだ。
 原稿の締め切りが間近だというのに、まだ全然書けていない。

 机には座って原稿とは向き合っているのだ。だけど、手が止まってしまう。
 こんなこと、今までに一度もなかった。

 自分のメンタルの弱さに嘆いていた円香に『取材旅行に行きましょう。何かインスピレーションが沸くかもしれませんし!』そう言って今日の取材旅行に誘ってくれたのは担当の七原だった。

 七原の言うように、この取材旅行がいい気分転換になることを祈っているのだけど……
 円香は、ため息をつきながら重だるい身体を嘆く。

 円香は新幹線のホームでただ立ち尽くしながら、ここ数日の自分の不調について考える。
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