今宵、貴女の指にキスをする。

「……相宮さん」

 涙声でそう円香が呟くと、相宮が電話先で息を呑んだのがわかった。
 会いたい気持ちと、先ほどまでの恐怖。円香を取り巻く感情は今、せわしない。

 縋るような気持ちでスマホを握りしめていると、電話口の相宮はどこか必死だ。

『木佐先生、今どこにいるのですか?』
「え?」
『教えてください。今すぐ行きますから』

 どこですか? そう何度も円香に問いかける相宮。その切羽詰まった声を聞いて、円香は涙腺が壊れそうだ。
 本当は相宮にすべてを話して慰めて貰いたかった。助けて貰いたかった。

 だけど、それはできない。
 円香は小さく頭を振る。

 相宮とはビジネスパートナーだ。そこまで相宮に縋る訳にもいかないだろう。
 相宮にとって円香の存在はビジネスパートナーであり、指フェチからくる欲求を満たすための女なのだ。
< 97 / 157 >

この作品をシェア

pagetop